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「小児がん患者・経験者自立支援プログラムの整備」報告 1.小児がん患者・経験者の自立と今後の課題

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  • 2012.4. 2

小児がん患者・経験者の自立と今後の課題

小俣 智子氏(武蔵野大学人間関係学部社会福祉学科)



o0301.jpgはじめに

30年前、子どものがんである小児がんは治りにくい、治らない難治性の病気であった。もちろん、今でもそれは変わらず、子どもの病気死因の第一位はここ数年キープしているのが現状である。しかし、医学の進歩により大人も子どももがんは治る時代になってきた。

私が白血病を発症したのはちょうど30年前、13歳の時だった。治らない病気の代表格のような有名な病気、白血病に自分の子どもが罹患し、両親はパニックに陥ったことと思う。当の私も、うっかり見てしまったドイツ語の医学書から、何の根拠もなく20歳まで生きられればよいと勝手に考えていた。治療や薬の効果、主治医の献身的な治療など、様々な幸運が重なって私はまだ生きている。生かされたいのちの活用法の一つとして、20年小児がんへの社会の理解と支援に関する活動を続けてきた。

活動を始めこの20年の間には、多くの医療や教育をはじめとする小児がんの関係者、家族、同じ経験をした仲間に会うことができた。また、2000年、2008年には簡単な調査も行い、小児がん経験者の状況を多少なりとも明らかにした。

本稿では、治らない時代に自らが発症し、今や治る時代と変遷を重ねた20年の活動を自ら振り返り、小児がんの子どもたち、経験者が今求めている支援、必要な支援とは何かを考えたい。

1.小児がんを発症するとは

いのちに関わる病気を発症したとき、これまでの生活は一気に崩れ180度違った世界に連れてこられたような気になる。それは子どもも同じであり、ましてその親は子ども以上に大変な状況に陥ることは想像に少なくない。

1)治療によって起こること

 私がそうであったように、体調が不良であってもそれが小児がんとは気づかないことがある。何度か町の病院にかかり、たまたま東京からアルバイトに来ていた小児科医が私の病気を発見してくれた。体の内部、細胞から発生する子どものがんは、発症から診断まで時間がかかる、別の診断がつくなどというようにスムーズに治療に辿りつけないことがある。

専門の病院で検査や治療が始まるが、その治療内容は長期にわたることが多く、過酷である。骨に直接針を刺し骨髄液を採取する「マルク」は、子どもにとって恐怖と苦痛の何ものでもない。点滴や感染症予防などのために行動制限が加えられ、治療が最優先の状況であるがために、子どもたちの仕事である遊びや学びの機会は奪われることとなる。

また、20年前から変わらない問題は子どもへの病名の告知である。どのように伝えたらよいか周囲の大人たちは本気で悩む。伝えることが当たり前ではなかった30年前に発症した仲間の中には、何年も経ってから別の機会に自分の病気を知った人もいる。伝えることのメリット、デメリット、タイミング、子どもの病状、親の想いなどが交錯し、安易に解決することは難しい。小児がんの場合、告知を受ける人(子ども)と、告知を受け、さらに誰よりも子どもを想い、告知するか決断する人(親・保護者)が存在するという、避けられない状況も解決を難しくしている。

治療による体への影響は当然個人差があるが、固形腫瘍であれば体の一部を切除するなどの傷や障害が残る。また、濃厚な治療を受けた影響として、治療中だけでなく治療後に晩期合併症という別な病気や障害が出ることもある。私自身も5年前乳がんを発症した。

いのちを救うために受けた治療は、こころにも体にも何らかの影響を与えている。

2)退院後のこと

 晴れて退院したとしても、学校への復学は容易ではないことがある。体力への低下、治療のための早退や遅刻、欠席、学校側の理解の程度。加えて術痕や容姿の変化は、多感な年齢であれば余計に、学校へ行くこと自体がストレスになることもある。さらに、長期欠席していれば勉強の遅れが生じ、進学にも影響する。友達からはなぜ休んだのか、なぜ傷があるのか周囲から説明を求められる。上手に説明できない場合など、いじめにつながることもある。この科学の進歩の時代に「白血病は移る」という情報が未だ流れていると聞く。

私の場合、周囲への何度にもわたる説明に加え、体力の低下や受診から1日学校にいることができず、みんなと同じに学べないことへの苦痛があった。

 復学後、次に出てくる壁は進学である。進学については、勉強の遅れや体力との兼ね合いや、受験校の理解の度合いなどから、自分の行きたい学校へ行けるとは限らない。選択肢の幅が狭まる。受験時や入学後も病状や処置など、学校側や周囲への説明が必要になることもある。

 就職は進学よりも深刻である。まず後遺症や障害によっては職種の選択肢は狭まることになる。私の仲間では、小児脳腫瘍で様々な晩期合併症があり、日によって、また1日の中でも体調が変動するため、なかなか就きたい職業に就けないでいる。働けない期間が年単位であると履歴書には空白が出てくる。採用面接で自らの病気を伝えた方がよいかも悩むところである。採用後も服薬や処置、通院などについての理解を職場に求める努力も必要となる。上司や職場が変われば一から説明をしなければならない。

 退院するということは、ある種守られていた病院から社会に出るということでもある。復園や復学に始まり、様々な壁がその後も待ち構えている。特に自らの病気をどのような形で誰にどれだけ伝えるかは、常に必要であり判断をしなければならない。

 治療に関しては、定期経過観察のための受診、継続服薬に加え別の疾患で受診や治療を受ける場合、小児がんの治療内容について説明を求められる場合がある。再発や晩期合併症の疑いがある場合、成人であるために小児科では対応が難しい場合もあり、受診先を探すこととなる。

また成人になり年齢を重ねるほど、就職や転勤、転居など生活の変化により、別の場所で生活することがある。その場合受診先などの選択も必要となる。

3)家族のこと

 家族の誰かが病気なれば、そのことは他の家族の生活にも何らかの影響が出る。子どもがいのちに関わる小児がんになれば、その影響は想像を超える内容である。親は、子どものいのちは大丈夫か、治療法や病院はここでよいのか、今後どうなっていくのか不安はつきない。加えて、なぜ病気になってしまったのか、家系や遺伝か、育て方かと発病の理由を探すこともある。このような精神的な負担に加え、治療費や通院費などの経済的負担や通院に伴う生活サイクルの変更、子どもに関わる関係機関や周囲への説明などの社会的なストレスが重なる。
 
親だけでなく、同胞(きょうだいしまい)も生活サイクルの変更を余儀なくされる。親の関心は病気の同胞に向かい、病気の原因は自分なのではないかと罪悪感に苦しむこともある。また同胞の病状などを知らされない、感染症の理由からお見舞いができず病棟外で待つなどカヤの外に置かれ孤独感を味わうことも多い。

私の場合、母が入院先近くの祖母宅で生活をし、父と妹が自宅というバラバラの生活が半年以上続いた。今思えば両親や妹への様々な負担は、かなりのストレスであったと思う。

2.小児がん患者・経験者に対する支援の現状

1)治療に関する支援の現状

 小児がんの治癒率が7、8割と向上してきたことに伴い、治療に伴う精神的な負担や晩期合併症のリスクの軽減について研究やそれに伴う実践が行われているのが現状である。

例えば先ほど例に挙げた「マルク」の検査は、小さい子であれば局所ではなく麻酔薬を使用する、大きい子であれば局所にするか選択させるなどの対応をしている病院がある。また専門病院であれば、子どもの立場に立って治療をサポートするチャイルドライフ・スペシャリスト(CLS)* や心の問題を取り扱う臨床心理士*、遊びを支援する病棟保育士*、子どもや家族の心理社会的問題を支援するソーシャルワーカーを配置しているところもある。

学びの面では、専門病院や大学病院において院内学級を設置しているところもある。しかし、院内学級で学ぶためには、手続きが必要となる。入院先の医療機関が別の自治体の管轄であれば、院内学級を運営している特別支援学校への転籍が必要である。また転籍可能な機関も自治体によって格差があり、入院したその日から学べるところもあれば、3か月入院していないと転籍できない自治体もある。
 
経済的な側面では、国の制度として小児慢性特定疾患制の医療給付、高額療養費制度などにより負担を軽減できる。

2)退院後の支援の現状

 退院後の支援は、各自治体による個別対応が主であるため、一般的な相談窓口としては自治体(役所など)に設置されている子ども家庭支援センターが存在する。学校では、病気の説明や学習の問題などについては、養護教諭や担任との相談となる。

 復学時は必要に応じて、院内学級関係者(担任やコーディネーター)と医療関係者(主治医、担当看護師、ソーシャルワーカーなど)と学校側(担任や養護教諭など)との話し合いを持つ病院をもある。

 進学や就職となると個別性が高いことから、個人で対応することが少なくない。その際の情報源や相談窓口として、患者会や家族会が病院ごとや地域ごとに存在し、情報交換や相談を行っている。就労の難しい小児がん経験者に対し、就労体験を含めた支援を行う団体も誕生した。

 成人後の受診については、治療内容を資料として本人に渡す病院や他科も受診できるよう長期フォローアップ外来を設置している病院もある。

3)家族に対する支援の現状

 入院中も退院後も必要に応じて、院内の専門職が継続して支援を行うこともある。また遠方の病院に入院した場合の家族の生活をサポートするために、宿泊施設を低額で提供する団体もある。
 
同胞(きょうだいしまい)に関しては、親が病児のお見舞い中に遊びのボランティアを行う団体や、同胞だけを集め遊びを通してストレスを発散させるプログラムを実施している団体が数は少ないが存在する。

小児がんを発症して起こる様々なことに対し、いくつかの支援や対応が展開されている。もちろん私個人の知り得る情報を述べているため、十分ではなくまだまだ他にも多くの支援があることとは思う。

 このように支援が展開されていく中で存在する大きな課題は、医療機関や地域によって支援体制に差があることである。どこに住んでいるか、どの病院で治療を受けるかによって、子どもとその家族への支援内容が決まってしまう。また、せっかく支援があってもそれが必要としている本人たちへ届かないという、情報へのアクセスの問題も存在する。

3.小児がん患者・経験者の自立について

1)自立について

 「自立」ということばを使用するとき、その定義は様々な状況や立場で違ってくるのではないかと考える。辞書(大辞林)によれば自立とは、「他の助けや支配なしに自分一人の力だけで物事をおこなうこと」としている。小児がん患者・小児がん経験者の自立を考えるとき、何をもって自立とするのかによって、必要な関わりや支援も違ってくると思う。

 本項において小児がん患者・小児がん経験者の「自立」とは、自らの力で自己実現することであるとしたい。加えて、今後「自立」とは何かについて議論の上、本人を含めた小児がんに関わる関係者が、共通認識を持つ必要のあることを書き添えておきたい。

2)小児がん患者・経験者の支援の特徴

 支援の目的は、小児がんを発症した子どもや成人した小児がん経験者が、病気の経験やそれによる後遺症や合併症を抱えながら、よりよく生きていくことである。

 小児がん患者・経験者への支援の特徴は大きく分けて4つある。1つは個別性の高さである。1では小児がんを発症した場合に起こることについて述べた。しかしながら起こる事象は、本人の背景となる状況(疾病、疾病の重症度、治療内容、本人の性格、療養環境、家族状況、住環境、教育環境など)によって個別性の高いものであり、支援の内容は当然個別に違うものとなる。このため、本人の背景となる状況を十分理解した上で、それに応じた支援が必要である。

 2つめは、治癒率の向上した小児がんは、治療中から退院後、そして成人してからも長期にわたり様々な問題が発生し、またいつ発生するか予測がつかないことである。問題発生時にどこで生活していても、円滑に相談支援が可能な体制が必要である。

 3つめは、利用可能な社会制度が少なく、20歳を過ぎると極端に減少するということである。治癒後も再発や晩期合併症の可能性から継続的な受診が必要であるが、受診時の自己負担は20歳を過ぎれば3割負担となる。症状によっては他の制度が利用できる場合もあるが、原因が疾病であると要件を満たさないこともある。

4つめは、小児がん経験者が自立していくために、問題発生時のみの支援では十分ではないということである。発症時から成人し自立する姿を見据えて、周囲の大人が関わっていくことが必要である。永らく小児がんに関わる専門職が重要とされていたキーワードは、本人・家族を含め小児がんの治療に関わる全ての人たちが関わり共にケアを進めていく「トータルケア」である。トータルケアを進めていくための専門職は、医師をはじめ看護師、理学・物理・言語聴覚療法士、保育士、ソーシャルワーカー、心理士、CLS、養護教諭、学校関係者など多く存在する。このトータルケアが退院後も地域の中で継続して行われることが重要である。

3)自立のための支援体制に必要なこと

 小児がん患者・経験者への支援の特徴から、自立のための支援体制として必要なことを導き出すと以下の5つが挙げられる。

 ①個別性を重視した支援
 ②トータルケアの視点(社会性の習得や本人の自覚を促す関わり)
 ③発症時から成人まで対応可能な長期フォローアップの体制
 ④支援体制の格差解消
 ⑤利用可能な社会資源の充実
 
 ①から④を実行していく鍵は、関わる「支援者」だと考える。その際には、問題ごとに支援者が変わるのではなく、継続して関わる人の存在が重要であると考える。具体的な心理社会的支援や必要な資源の調整や専門職のコーディネートを行い、当事者である本人や家族の声を代弁する機能を持つ職種、ソーシャルワーカーが適任ではないだろうか。

 ソーシャルワーカーという職種は、日本では社会福祉士という名称で国が認めた国家資格である。主に社会福祉の実践現場で実践を行っているが、診療報酬制度を基盤とした医療の世界では、業務の点数化や配置基準として認められていないため、なかなか定着することが難しい。先に挙げた病棟保育士やCLSも同様に、小児医療に必要な職種であるにも関わらず十分な配置がなされていない。支援体制の大前提として、そもそも必要な職種を配置し職務に権限と責任を持たせる環境整備が急務である。

 また、支援者である専門職をただ配置すればよいということではなく、それぞれの専門職が小児がんに関する専門知識やチームで支援をする技術を持ち、質の担保とレベルアップのためのトレーニングを行っていく必要がある。

おわりに

 小児がんは名前の通り、子どもに起こるがんである。子どもは成長発達する存在であり、小児がんは7割、8割が治る時代になった。30年前はいのちを救えるかが最大の課題であり、「自立」という考えはなかったと思う。時代の変化に伴い、その支援体制も変化していく必要がある。成長発達していく子どもに伴走者のように付き合い、自立を促していく周囲の支援が重要である。

 私の仲間の中には、身体的な理由や社会的な理由により仕事に就きたくても就けない仲間がいる。親という保護者から自立し、自分の足で歩きたいと願っている仲間がいる。小児がんが治るようになってきた今こそ、その仕組みを作ることが急務だと思う。

 加えて小児がんの支援体制を構築していくことは、子どものころに慢性疾患を発症した経験者たちや障害を持つ人たちの支援体制の充実につながる。

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