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脳死肝移植をされたCさんの手記
●移植登録
2016年、この頃(44歳)はまだ肝移植を急ぐほどではなかったのですが、血液検査や画像診断で肝硬変になっていることはわかっていました。いずれ移植も必要になるかもしれないと悩んでいたのですが、そんな時HIVを診てくれている主治医から肝移植の登録の話がありました。肝移植はメルドスコア(※)という点数の高さで臓器を提供してもらえる順番が決まります。通常は病状でメルドスコアが算定されますが、薬害HIV患者は重複感染による症状の急変が考慮され、病状のスコアとは別に、半年に1点が加点され続けるとのことでした。なので、登録をしてしまえば時間経過でスコアは自動的に増えていき、移植の待機待ちの順番が一般患者より有利になります。10年後の病状を想像し、今のうちに登録しておくことにしました。移植登録のためには、実際に移植をしてもらう医療機関で10日程度の入院をし、決められた検査を受ける必要があります。僕がHIVやC型肝炎、血友病を診てもらっている病院は移植をしていないので、近くの大学病院(近畿地方)にお願いすることになりました。
●登録してから体調悪化まで
登録をすれば、定期的に移植実施施設に通院しなければなりません。病院によって通院頻度は様々のようです。僕の場合は3か月に1回でした。外来では定期的に採血や画像診断をしてもらいながら日常生活の話や体調の話をし、経過観察を続けていました。登録はインアクティブ(登録はするが実際の移植はせずに待つ)にしてもらい、本当に必要な時がくれば、アクティブ(実際に移植をお願いする)に切り替えることにしました。肝臓は、低空飛行ですがなんとか仕事をしながら日々を過ごすことができ、移植が迫ってくるまでの8年間、ずっと定期通院だけの日々が続きました。
●新たな病気の発見と移植の決断
2024年、意外な病気が見つかりました。門脈肺高血圧症という病気で、初めて聞く名前でした。この病気はHIVやC型肝硬変が原因でなる場合があり、症状が進むと右心不全を起こす可能性がある上に、肝移植でしか治療ができなくなってしまいます。焦りました。そんな時、はばたき福祉事業団の方と話す機会があり、過去に長崎大学病院で薬害HIV患者が数名、脳死肝移植をしてもらっていることを知りました。自分が移植をお願いした病院は通常の肝移植は多く行っておられますが、薬害HIV患者を移植した経験がないことは知っていたので羨ましく思いました。そして、はばたき福祉事業団が長崎大学病院と共同で薬害HIV患者のための肝検診事業をやっていることを教えてもらい、参加させてもらうことになりました。長崎大学病院で色々と検査をしていただき、先生や移植コーディネーターから多くのことを教わりました。その際、先生から肝機能もギリギリだし、門脈肺高血圧症があるならそろそろ移植を考えたほうがいいと助言をいただきました。悩みましたが、先のことを考え、覚悟を決めて移植をすることにしました。既に移植をお願いしていた病院には申し訳なかったのですが、実施施設は長崎大学病院に変更しました。
●インアクティブからアクティブへ
アクティブにする直前に最終の全身検査があったのですが、副鼻腔炎と虫歯が判明したので、副鼻腔炎は手術、虫歯は抜くことになりました。事前のワクチン接種(かなりの数)も全て打ち終わりました。インアクティブからアクティブに変える時、僕のメルドスコアは36点になっていました。かなりの高得点です。アクティブに切り替えれば実際の待機の順番を教えて貰えます。僕の血液型はA型Rh⁺なのですが、2番目に順番が回ってくるとのことでした。こんなに早く順番が回ってくるとは思っていなかったので、8年前に登録していて本当によかったと思いました。病院からいつ電話がかかってくるかわからないので急いで長崎に行く準備をし、3週間がたった頃、とうとう順番が回ってきたので急いで長崎大学病院に向かいました。
●術中、術後
手術は13時間7分かかり、出血量は2328cc、血液製剤は2000単位を14瓶使用し、術中のトラブルもなく無事に終えることができました。出血量は少なく、使用した血液製剤も少なくすみました、術後にイレウス(腸閉塞)になり、いくつか不安なことはありましたが、先生方がすぐに対応してくださったおかげで問題はすぐ解決しました。術後も良好で、ICUに一週間、一般病棟に移って1ヶ月半で退院することができました。話には聞いていましたが、血友病が治癒したのにも驚きでした。術後の凝固因子のパーセントが100%を超えていました。現在、術後8ヶ月たちましたが、先月測った凝固因子は110%で、術後に血液製剤は一度も使っていません。現在は自宅から通える大学病院に通院し、免疫抑制剤の調整をしながら日々を過ごしています。落ち着いてくれば手始めにアルバイトから仕事を始めようかと思っています。
●伝えたいこと
肝移植は怖いイメージがあると思います。僕もそうでした。しかし、肝移植がうまくいけば今まで異常値だらけだった肝機能の数値が正常化し、生活も改善します。症状が悪くなりすぎたり、年齢も高齢になればなるほど移植の成功率に響きます。自分の病状を正しく把握し、将来、移植が必要になるかもしれないと思えば、早めに主治医に相談したほうがいいと思います。はばたき福祉事業団を通じて長崎大学病院で検診し、助言をもらうのもいいと思います。長崎大学病院は、江口教授を筆頭にチームの先生方は素晴らしく、移植コーディネーターの方も、知識と経験が豊富でとても頼りになります。僕は肝移植をしてもらい、とてもよかったと思っています。自分の肝臓が気になる方は、はばたき福祉事業団に相談することをおすすめします。
※MELDスコアについて
長崎大学病院移植医療センターレシピエント移植コーディネーターの辻あゆみ氏よりMELDスコアについて注釈をいただきました。以下でMELDスコアの内容等についてご確認ください。
・MELD(model for endstage liver disease)スコア
血液検査の項目のPT-INR、総ビリルビン、クレアチニン、血系透析施行の有無から算出されるスコア。肝疾患の重症度判定に用いられます。
・脳死肝移植における医学的緊急度
以前は脳死肝移植希望者(レシピエント)の選択基準である医学的緊急度判定にはChild₋Pughスコアが用いられていましたが、2019年からMELDスコアが用いられるようになりました。医学的緊急度はレシピエントの疾患に応じてStatusⅠ(急性肝不全昏睡型、遅発性肝不全、尿素サイクル異常症、有機酸代謝異常症の4疾患)とStatusⅡ(StatusⅠ以外の疾患)に分かれており、優先順位はStatusⅠ→StatusⅡ内のMELDスコアの高い順に設定されることになりました。
HIV/HCV共感染はStatusⅡの疾患群であり、HIV/HCV共感染軽症・HIV/HCV共感染重症に分類されています。前者はMELD27点、後者はMELD16点での登録開始となり、180日経過するごとに2点加算される周期加点となっています。
●その他の手記や肝臓治療に関する動画は以下に掲載されています。
薬害HIV感染被害者の肝臓治療に関する動画サイト